1978/10/20
木枯らしの吹き抜ける薄野原を、緩やかに登りつめると、背の高い木々はなくなり、丈の短い雑草と露出した岩の山道になる。急に高度を感じるようになり、視界が開け、眼下の景色に思わずため息が出る。薄曇りの雲の下で、右手には近江盆地が開け、ぽつんぽつんと小山が、濃い緑の隆起を見せている。その向こうには銀色に静かに光る琵琶湖が霧にかすんでいる。真正面には鈴鹿の山々がどっしりと構え、左手の岐阜の美濃平野と右手の近江盆地とを分けている。降ったりやんだりする雨の中で、カッパを脱いだり着たりしながら、黙々と歩く後輩たちの足元を見ながら、やけに素直な気持ちになっている自分を感じる。秋とは言ってもまだあまり色づいていない山肌の中で、薄の白くなびく穂が秋を感じさせてくれる。そこを抜けて、風に吹かれ身を寄せ合いながら険しい山の中へ入って行く。雲の流れが、まるでスピード撮影の映画のように流れてゆく。青空が見え隠れし、小雨が時折、額の汗に混じって流れる。
父も登った山だ。
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